NIKKEI Summits Interviews

AI/SUM Speaker: 青砥 瑞人

2019年02月07日

AI(人工知能)は、人間の脳にたとえられることが多い。その比較の中から、「人工知能は人間の仕事を奪う」とか「暴走して人を襲うかもしれない」といった議論にもなる。しかし、「そもそも生命体の脳とチップで動く人工知能を同列に比較することには無理がある」というのはDAncing Einsten(ダンシング・アインシュタイン)Founder CEOの青砥端人(あおと・みずと)さん。AIと脳神経科学(Neroscience = ニューロサイエンス)のユニークな関係について尋ねた。

人工知能がもたらすと言われる「シンギュラリティー」に疑問を投げかけていますね。

 あくまで私見ですが、シンギュラリティの前提が間違っているのかもしれません。

 人間の脳にはニューロン(神経細胞)が一千数百億個あってそれぞれが1万のシナプスを持っていると言われます。その組み合わせのパターンをデジタルの世界の「0」「1」で捉えるといずれ人工知能が人間の脳を超えることも不可能ではないと思われがちですが、実際の神経細胞は、「0」と「1」の間を無限に刻んでいる。あるいはマイナスもあるかもしれない。非常に複雑な世界がそこにあるわけで、「0」「1」だけで語るのは大雑把に思えます。

 脳における神経細胞は一千数百億あると言いましたが、それは脳の1割に過ぎません。残りの9割は「グリア細胞」と言われ、神経細胞に栄養を与えたり、組織を維持したりするのに使われています。電気に反応する神経細胞だけを捉えて「脳は1割しか働いていない」と言われますが、グリア細胞も重要な役割を果たしているのです。

複雑な世界に挑む「脳神経科学(neuroscience)」は人工知能とどのようなコラボレーションをしていくのですか。

 人工知能が得意なところと人間が得意なところをしっかり区別して臨むと良いのではないでしょうか。

膨大なデータから、統計的に、画一的に何か兆候や傾向をつかむということは人工知能が圧倒的に強いのでまかせる。人間は、非統計的に、個々人の体験に基づいた記憶の作用を受け、更にその時々の対内外の状況という揺らぎをもち、意思決定し行動できる。不確定要素や失敗確率が高いことにも取り組み、体内外の揺らぎドリブンによる感性、発想や創造性は人間の働きどころと言えるのではないでしょうか。

 ニューロサイエンス(神経科学)は細胞レベルで可視化する技術が広まり、2010年以降に一気に加速したまだ若い学問です。その主な目的はアルツハイマーなどの脳疾患の研究だったりしますが、人工知能との組み合わせによって、「記憶の可視化」「感情の可視化」といった試みも可能になるのではないかと思い、DAncing Einsteinでも取り組んでいます。

「主観的な感情」と「客観的な感情」データなどから、人間の幸せと成長につなげていく。そんなことを目指しています。